#52 はかない夢。
最近、いくつかの工房を拝見する機会に恵まれた。
彫金工房の独特な雰囲気、いろいろな種類の道具が所せましと置かれていたり使いやすいように並べられていたり…この空間から素敵なモノたちが生まれると思うと、とてもワクワクした。
また、工房は主のお城のように見え、心底うらやましく思えた。
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もともと設計業界にいて、設計図をかいて大きなモノをつくっていた。
出来上がったものは、大抵2~3週間で取り壊されてしまい、長いものでショップなどは3年でリニューアルされた。住宅のインテリアはきっと長いこと残っているけど、基本的に2度と会うことはない。
それで、永遠に残る誰かの宝ものがつくりたくて、ジュエリー業界に転身した。
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本当は職人になって、その宝ものを自分でつくりたかった。
自分で考えたモノを自分の手で思った通りにつくる、それが夢だった。
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その夢は叶わなかった。
彫金教室にも3年くらい通ったけど、いつも出来上がるジュエリーは「不細工」。想像していたものと10㎞くらいの差があった。
「こんな不細工なもの、考えた覚えはありませんよ。」と出来たモノに心で宣言し、教室の人に見られないようにとイソイソ隠して持ち帰えっていた。
着けることもほとんど無かった。
ある時、教室に入ってきた彫金未経験の女性が、2か月くらいでスッゴイ素敵なシルバーリングをつくったのをみて、アゴがはずれた。目が飛び出すかと思った。
作っている過程も手際よく、私より数段うまかった。
本当にショックな出来事だった。
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次の週にさっさと彫金教室をやめた私は、「つくって貰う側の人になろう。」と決めた。
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そもそも手先が器用ではなかったよ。
絵を描くのが少し得意な方だっただけで、勘違いしておった。つくるのは別。
手先は確実にオカシかった。食器はガンガン割るし、包装はきれいに開けられない、カバンから財布を出すだけで財布を5mも飛ばした、こんなことが日常な訳ですから。
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で、今回、工房を訪れて、沸々とまた自分で作りたい熱が出てきている訳です。危険だ。
ちょうど一年前もその熱病がやってきて、工房を見学にいったり職人さん会ったりしていたけど、なんとか封じ込めた訳です。
その都度、その彫金教室の現実を思い出し、留まっている。笑
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私は商品を作ってはならんのだ、つくって下さる職人さんに感謝と敬意を払い、思い通りのものを作ってもらう、と、再び確認するのでした。
だって作れないの、わかってるもーん。